操法をおこなうとき、ただちに痛いところ、あるいは患部にさわることは、まずありません。
なぜならば、それはただ結果として表にあらわれた表象に過ぎず、そうなるに到った原因をさかのぼり、大本のバランスそのものをこそ正さねばならないからです。
たとえば腰が痛い場合、仙腸関節がズレてるとしましょう。
しかし、最初に仙腸関節を調整しようとする前に、なぜそこがズレなければならなかったかを検証しなければなりません。
ヒザの関節から来ているのか、腓骨から来ているのか、あるいは足首からアンバランスになっているのか。
そのあたりを丁寧に読み、的確な見立てをおこなうことこそが大切なのです。
そのために、目に見える部分だけではなく、症状が起こる以前にさかのぼり、原因をさぐっていくことが必要です。
ただし、ホントの第一原因というのは、なかなかわからない。
いわゆる先天性ということもあり得ますし、出産の際のとりあげ方に問題があったのかもしれませんし、あるいは嬰児のときになにかしらの衝撃があったのかもしれません。
しかしながら、それでもなお可能な限り、大本へと遡ることが大切であることに、間違いはありません。
ときに、目には見えない世界を相手にしなければならないこともあります。
形としては感じることのできない地平線のものを調整しているときなど、顕微鏡のミクロの世界を調整しているような気分になることも、しばしばあります。
東北地方にお住まいの方が、はるばる飛行機でお見えになりました。
私としては、こんなに粗末な操法室へ来ていただくのは気が引けるのですが、お話をうかがいますと、もう何年も治療院に通っているけれどもかんばしくないとのこと。
お母さまがお連れになったのですが、その症状というのが、子供さんが、生まれつき手に力が入らず、握ったりつかんだりするのが、とても大儀なのだそうです。
どこかの先生に診てもらったところ、頸椎に陥没があり、それで神経が圧迫され、手に力が入らないのだろう、とのことでした。
症状としては難症のようでしたし、もしも私でお役に立てるのなら・・と思いましたので、お受けした次第でした。
たとえ生まれつきであろうとなかろうと、ただちに頸椎をいじることはありません。
ラクな感じで立ってもらいますと、重心がまず小指側、つまり外側にかかっているのが見てとれます。
これは「ストレートネック」でも書きましたが、腰が落ち、背中が曲がり、肩胛骨が開いてアゴが前に出やすいバランスです。
まずはこの偏りを、生来の、からだの中心に力が集まるバランスに戻してあげなければなりません。
そして手の症状ですから、手首の関節、肘の関節、そして肩関節を丁寧に調整します。
そうすると、「ずいぶんと手が握りやすくなった」と言います。
ただし残念ながら、まだまだ普通の感覚ではなさそうです。
あおむけになった彼の頭側に座し、左手でソッと頸椎をさわってみます。
すると、第2頸椎だけが棘突起にさわることができません。
その先生がおっしゃった見立ては、間違ってはいなかったようです。
ただ、いかにしてそれを調整するかがモンダイです。
あらためて左手の中指をその陥没したあたりに当て、その中指にピタリと反応が伝わる箇所を、右手でさがしました。
この場合、反応点というのは、垂直方向にあることが多い。
ただし、まっすぐ直線であることははまずなく、しかも間違いのない一点を得ることが不可欠です。
そうしてみると、のど仏の微妙に上のあたりに反応が感じられました。
左手にもスーッと反応が通ってきます。
左手と右手の手指で合わせ、相互の反応を通し、滞りのない変化を導きます。
どれだけその操法おこなっていたでしょうか。
やがて左手の中指に、頸椎の棘突起が感じられるようになってきました。
なおもしばらく続けていましたが、反応に区切りがついたもようでしたので、終えました。
で、どんな感じかうかがってみますと、
「いままでと違い、いつの間にか明らかに手に力が入るようになった」とのことです。
ものごころついたときから力が入らなかったのが、そのときを境にして入るようになったので、若干とまどっておられたかもしれません。
でもたぶん、一回ではまだ完全ではないでしょう。
これは、私の手に感じた感触です。
しかしご本人は、おそらくものごころつく前からのことですからどの程度が完全かはわからないのです。
それでも、喜んでいただきましたので、私も胸をなでおろしました。
現在のところ、その後はいらしてません。
遠方ですから、できるならたびたび来室せずに済めばなによりです。
操法が終わったあともからだは変わり続けますから、もしかしたらなんの支障もないほどにまで改善したのかもしれない。
ただこれは、私にも予測はつきません。
横浜市戸塚区 整体 愉和 清水